「湘南ベルマーレ」という名前は、湘南エリアで暮らす人なら誰もが一度は耳にしたことがあるはずです。平塚を本拠地に、茅ヶ崎・藤沢・鎌倉など湘南各市をホームタウンとするJリーグクラブ。2025年のJ2降格と、2026年2月のRIZAP撤退——この2つのニュースをきっかけに、「ベルマーレって今どういう状況なの?」と気になっている地元の方も多いのではないでしょうか。経営の話は難しく聞こえますが、地域住民として知っておきたい部分だけに絞って整理してみました。
RIZAPとの8年間——何を目指し、なぜ撤退したのか
2018年4月、フィットネスジム事業で知られるRIZAPグループが湘南ベルマーレの経営権を取得しました。当時の筆頭株主・三栄建築設計と合弁会社を設立し、クラブ株式の約50%を取得。取締役7名を派遣して本格的な経営参画が始まりました(出典:RIZAPグループ公式プレスリリース、2018年4月)。
① 2020年までにタイトル獲得(J1リーグ・天皇杯・ルヴァン杯のいずれか)
② 2020年までにスタジアム収容率No.1を実現
③ フィットネス事業との相乗効果で選手強化・サポーター拡大
④ 湘南地域での「健康まちづくり」をクラブ経由で推進
参画した2018年には、ルヴァンカップでクラブ史上初の優勝を果たすという好スタートを切りました。平塚市内には「RIZAP Lab」を開設し、フィットネスノウハウを選手育成に活用する取り組みも注目を集めました。
しかし、RIZAPグループ本体は2018年末に業績の大幅な下方修正を余儀なくされます。積極的なM&A戦略の見直しが迫られるなかで、クラブへの大型投資という絵図は縮小していきました。「スポーツ×フィットネス」の夢のシナジーは、思い描いたほどには実現しませんでした。
2025年——J2降格が引き金に
2025年シーズン、湘南ベルマーレはJ1開幕3連勝という好スタートを切りました。しかし夏場にかけて鈴木淳之介・畑大雅・福田翔生ら主力3選手が相次いで海外クラブへ移籍。5月11日の東京ヴェルディ戦を最後に白星から遠ざかり、最終的に19戦未勝利となって10月26日のアビスパ福岡戦でJ2降格が確定しました(出典:サッカーキング、2025年10月)。9年ぶりの降格です。
山口智監督は「謝っても謝りきれない」とコメントし、同年限りで退任。その後、U-20日本代表監督に就任したと各スポーツ報道は伝えています(2025年12月、JFA公式発表)。
2026年2月——RIZAP、撤退を発表
J2降格を受けて、RIZAPグループは2026年2月20日、保有する湘南ベルマーレ株式の全て(発行済株式の50.002%)を、フジタ・アマダ・産業能率大学など6者の共同出資者へ譲渡すると発表しました(出典:日本経済新聞、ロイター、2026年2月20日)。約8年にわたる経営参画に幕を下ろしました。
・譲渡発表日:2026年2月20日(即日契約締結)
・譲渡元:RIZAPスポーツパートナーズ株式会社(RIZAP連結子会社)
・譲渡先:フジタ(建設大手)を代表とする6者
・RIZAPの理由:低価格ジム「chocoZAP(チョコザップ)」への経営資源集中
・フジタのコメント:「特定の親会社を持たない独立したクラブとして、地域と共に支えていく」
RIZAPグループ専務取締役の塩田徹氏は会見で「悩んで、悩んで、悩んだというのが心底の本音」と心境を明かしました(文春オンライン、2026年2月21日)。売却額は非公表です。
財務の現状——「赤字」をどう読むか
直近の決算公告(第24期、2025年3月期)によると、湘南ベルマーレは営業損失約1億5,000万円、純損失も約1億5,000万円と赤字に転落しています。累積の利益剰余金はマイナス約10億円という状態です。
Jリーグクラブは入場料・スポンサー収入・放映権料を主な収入源とする地域密着型の事業構造が多く、単年度の赤字自体はJクラブ全体でも珍しくありません。ただし累積赤字が膨らんでいる状態は、経営の安定性という観点では継続的な課題となります。J2降格によって放映権収入が減少するため、2026年以降の財務への影響も注目されます。
スタジアム問題——平塚市との長年の溝
湘南ベルマーレのホーム「レモンガススタジアム平塚」は、「観客席の3分の1以上を屋根で覆う」というJ1クラブライセンス規則を満たしていません。この問題はクラブが長年抱えてきた構造的な課題です。
| 時期 | 主な動き |
|---|---|
| 2015年 | 平塚市主体でJ1基準充足のための改修案を検討(概算費用53〜130億円)。市の財政難で事実上凍結。 |
| 2023年5月 | クラブが総事業費約142億円の新スタジアム計画を提出。うち70億円の負担を平塚市に要請。 |
| 2023年〜 | 平塚市長が「財政面での見通しが立たない」として難色。「かなり無理な提案を一方的に突きつけられた」とも発言。 |
| 2024年3月 | 平塚市長がJリーグ野々村チェアマンと直接会談。課題共有と月次勉強会の継続を合意。 |
| 2026年2月 | 河野太郎議員が新スタジアム問題に言及し、落合平塚市長への働きかけを公表。 |
改修案は市の財政難で止まり、新スタジアム案は平塚市から事実上拒否されているという状況が続いています。サポーターや地元商工会議所を中心に建設協議を求める多数の署名が集まりましたが、市の財政規模や公園利用への影響を懸念する声も市民の中にあり、合意形成が難航しています。クラブは毎年条件付きでJ1ライセンスを維持してきましたが、今回のJ2降格により、直近のライセンス問題は一時的に棚上げとなっています。
※スタジアム問題をめぐる詳細な経緯については、平塚市の公式発表やJリーグの資料をあわせてご参照ください。
なぜ「出ていけ」という言葉が広がったのか
この記事を書くにあたって検索データを見ていて気づいたのですが、「湘南ベルマーレ 出ていけ」という言葉で検索して、このサイトにたどり着いている方が実際にいらっしゃいます。正直、最初は「そこまで強い言葉が使われているのか」と少し驚きました。
調べてみると、たしかにそう受け止められる空気があったようです。きっかけは2023年、新スタジアム計画を巡ってクラブ側が「平塚市との交渉がまとまらなければ、他の自治体への移転もあり得る」という趣旨の発言をしたことでした。運営会社の社長は、条件が飲めなければ一方的に出ていくような強硬姿勢は取らない、という趣旨の説明をしていますが(出典:Number Web、2023年)、この発言そのものが一部で「脅しに聞こえる」と受け止められ、反発を招いたようです。
ネット上の反応を見ていると、「地域密着を掲げるクラブが『出ていく』と口にすること自体が矛盾している」という指摘が目立ちます。一方で、地元の政策動向を追う書き手の分析では、市民の中にもそこまでしてクラブに残ってほしいという声は思ったほど多くないのでは、という見方も語られています(出典:note「平塚政策ラボ」)。推測ですが、「出ていけ」という言葉は、クラブそのものへの敵意というより、交渉の進め方への苛立ちが強い言葉になって表れたもの、という側面もありそうです。
茅ヶ崎に住む身としては、正直この問題は少し距離のある話に感じることもあります。ただ、レモンガススタジアムに何度か足を運んだ経験から言うと、屋根のない観客席で雨に濡れながら応援するサポーターの姿を見ると、施設の老朽化は決して大げさな話ではないとも感じます。どちらか一方が悪いという単純な話ではなく、財政的な制約と地域への愛着がせめぎ合っている、というのが率直な印象です。
茅ヶ崎在住20年の身からすると、「出ていけ」も「出ていくな」も、結局はベルマーレというクラブへの関心の裏返しなんじゃないかなと感じています。本当にどうでもよければ、そもそも検索すらしないはずですから。
茅ヶ崎・藤沢など複数市町との関係
スタジアム問題は「平塚市」との課題ですが、湘南ベルマーレのホームタウンは平塚だけではありません。茅ヶ崎・藤沢・鎌倉・小田原・秦野・伊勢原・寒川町・大磯町・二宮町など、神奈川県南西部の9市11町・約200万人が住む広域エリアをホームタウンとしています(湘南ベルマーレ公式サイト)。
新スタジアム問題は平塚市との課題ですが、クラブと湘南エリア全体との結びつきは続いています。ホームタウン各市でのイベントやスポーツ教室、各市との地域連携活動は引き続き行われており、「湘南」という広域ブランドを体現するクラブとしての役割は変わりません。
ベルマーレと地域の接点——経営問題を超えたところにあるもの
ここまで経営やスタジアムの話が続きましたが、湘南で暮らしている人間として感じるのは、ベルマーレはそれだけじゃないということです。
クラブのNPO法人(湘南ベルマーレスポーツクラブ)は、馬入ふれあい公園サッカー場や湘南ひらつかビーチパークなどの施設管理を担い、年間1,500回を超えるホームタウン活動を行っています(湘南ベルマーレ公式サイト)。小学校への体育巡回授業、障がいのある方へのホームゲーム招待、地域の祭りへの選手参加——こうした活動が、地道に続けられています。
伊勢原市に湘南キャンパスを持つ産業能率大学は2004年からクラブと提携関係を結び、大学としてJクラブのユニフォームスポンサーになった草分け的存在です。スタジアムでは今年も「産業能率大学スペシャルデー」が開催され、地元中学校への観戦チケット寄贈なども行われました(2026年)。
経営問題やスタジアム問題という現実の課題を抱えながら、ベルマーレは「サッカークラブ」という枠を超えて、湘南エリアのスポーツ文化の担い手として長年活動し続けてきました。RIZAPの撤退とフジタ中心の地域企業体制への移行は、ある意味でクラブの原点回帰とも言えます。この先の再出発を、地元に住む者として静かに見守っていきたいと思います。
茅ヶ崎在住20年以上。湘南エリアの暮らし・まちの変化を長年見てきた立場から、地域の話題を等身大で発信しています。レモガスには何度か足を運んでいます。
参考・出典
- 日本経済新聞「RIZAP、湘南ベルマーレを売却 チョコザップの経営に集中」(2026年2月20日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC184Y10Y6A210C2000000/ - ロイター/Newsweek Japan「RIZAP G、湘南ベルマーレを売却 保有株50%を共同出資者に」(2026年2月20日)
https://www.newsweekjapan.jp/headlines/business/2026/02/588237.php - 文春オンライン「ライザップが湘南ベルマーレから撤退…売却発表前に起きていた経営陣の対立」(2026年2月21日)
https://bunshun.jp/articles/-/86373 - RIZAPグループ公式プレスリリース(2018年4月)
https://www.rizapgroup.com/news/press-releases/pr-20180607-01/ - タウンニュース「ベルマーレ新スタジアム J側、課題解消へ協力姿勢」(2024年3月20日)
https://www.townnews.co.jp/0605/2024/03/20/725190.html - タウンニュース「湘南ベルマーレ 新スタジアム建設を提案 平塚市は難色示す」(2023年6月)
https://www.townnews.co.jp/0603/2023/06/09/682081.html - サッカーキング「9年ぶりJ2降格の湘南、山口智監督が今季限りで退任」(2025年10月31日)
https://www.soccer-king.jp/news/japan/jl/20251031/2082262.html - 株式会社湘南ベルマーレ 第24期決算公告(PR TIMES)
https://prtimes.jp/finance/7021001036470/settlement/322963 - 湘南ベルマーレ公式サイト「ホームタウン活動」
https://www.bellmare.co.jp/club/hometown - JFA公式「FIFA U-20ワールドカップ2027 U-20日本代表監督に山口智氏が就任」(2025年12月)
https://www.jfa.jp - Number Web(文藝春秋)「湘南ベルマーレ”新スタジアム建設案”に平塚市長は『かなり無理な提案を一方的に…』」(2023年)
https://number.bunshun.jp/articles/-/858626?page=4 - note「ベルマーレ新スタジアム問題の本質|平塚政策ラボ」
https://note.com/hiratsuka_labo/n/nf34b09ee90d6

