「湘南の治安ってどうなんですか?」——移住相談を受けるたびに聞かれる。私は湘南で20年以上暮らし、この地域のあちこちを行き来してきた。今日はあえてデータを脇に置いて、その中で実際に経験した出来事を、そのまま書いてみようと思う。
結論を先に言うと、湘南の治安は悪くない。でも「悪くない」の中身は、住んでみないとわからないことばかりだった。
自転車を盗まれた、たった30秒の油断
茅ヶ崎に越してきて2年目の夏、駅前のコンビニに寄った。荷物を持っていたから鍵をかけるのが面倒で、「30秒だから」とそのまま店に入った。戻ったら、自転車がなかった。
後で近所の人に話したら、「駅前はみんな一度は経験するよ」と笑われた。後から調べると、湘南でも駅前では自転車盗難が比較的多い地域もあるらしい。治安が悪いというより、無施錠の自転車が単純に多いんだと思う。今はU字ロックとワイヤーの二重ロックが手放せない。
「湘南は安全」という空気に、自分自身が一番油断させられていた。盗まれたのは自転車だったけど、失ったのはそれ以上に「ここなら大丈夫だろう」という根拠のない安心感だった。
夏の江ノ島、花火の音で目が覚めた夜
海から3分ほどの友人宅に泊まった8月の夜、深夜1時過ぎに手持ち花火のパチパチという音と若い声で目が覚めた。窓を開けると、浜辺に座って音楽をかけている一団がいた。友人いわく「7月から8月は毎晩こんな感じ」とのこと。
怖いという感覚とは少し違う。危険というより、単純に「うるさい」。海が近い物件のリアルは、この2ヶ月間をどう受け止めるかに尽きると思う。海から少し離れれば、この騒がしさは驚くほど嘘のように消える。
鎌倉の住宅街、静かすぎて少しどきっとした夜
逆の話もある。鎌倉の友人宅からの帰り道、夜9時過ぎに住宅街を歩いていたら、人っ子ひとりいなかった。街灯と自分の足音だけ。物騒な意味ではなく、あまりの静けさに「これはこれで慣れが必要だな」と感じたのを覚えている。
治安がいいというのは、単に「事件が少ない」だけじゃなく、こういう「誰もいない静けさ」も含んでいるんだと、そのとき初めて実感した。賑やかな暮らしに慣れている人には、最初は少し寂しく感じるかもしれない。
平塚の友人宅からの帰り道
平塚駅前で飲んだ帰り、22時頃に駅の繁華街を歩いたことがある。正直、藤沢や茅ヶ崎の駅前とは少し空気が違うと感じた。危険な目に遭ったわけではないけれど、酔客の多さや路上の雰囲気に「早めに電車に乗ろう」と思ったのは事実だ。
ただ、その友人が住んでいるのは駅から歩いて15分ほどの住宅街で、そこまで行けば拍子抜けするくらい静か。同じ平塚でも、駅前と住宅街ではまったく別の街のように感じた。
「湘南は安全」の中身を、自分の足で確かめてほしい
20年住んでいて、明確に「怖い」と思った経験はほとんどない。それでも、自転車は盗まれたし、夏の夜は騒がしいし、駅前で少し身構えたこともある。そのどれも、統計上は「軽微な話」なんだと思う。
だからこそ言いたいのは、治安のデータよりも先に、自分の足で夜の道を一度歩いてみてほしいということ。同じ「湘南」でも、駅前と住宅街、海沿いと内陸、季節によって、体感はまったく違う。数字が教えてくれない部分は、結局のところ自分の感覚でしか埋められない。
治安の話をすると、つい「安全か危険か」の二択で語りたくなる。でも実際に住んでみると、そのあいだにあるグラデーションの中で、自分に合う場所を見つけていく感覚に近い。湘南はそのグラデーションの幅が、わりと広い街だと思う。
※本コラムは筆者個人の体験・所感に基づくものです。エリアごとの犯罪統計データについては、別記事「湘南の治安を徹底比較」で神奈川県警のデータをもとに詳しく解説しています。
