海を見る生活は本当にメンタルに効くのか。湘南に来てから少し変わったこと

住みやすさ・評価

この記事を書いた人

なお@HAVE MARCY / 湘南エリア在住20年以上・投資歴30年の個人投資家。茅ヶ崎に住みながら、不動産・生活コスト・湘南の暮らしのリアルを当事者目線で発信しています。

「海の近くに住むと、メンタルが安定するらしい」という話は、湘南移住を考えている人と話すとよく出てくる。

たしかに、東京で消耗していた人が海沿いへ引っ越して少し元気になるケースは、周囲を見ていると確かにある。私も、その感覚はぼんやりとわかる。でも同時に「海を見れば人生が整う」みたいな話では、まったくないとも思っている。

海は便利じゃない。問題を解決してくれるわけでもない。でも、都市生活の圧力を少し弱める効果は——たぶん、ある。今回は、20年以上湘南に住んできた自分の実感として、その「たぶん」の部分を掘り下げてみたい。


東京にいると、脳がずっと「処理モード」になる

これは上手く説明しづらいのだが、体験した人には分かると思う。

満員電車、スマホの通知、細かい路地、歩道を歩く人の多さ。東京って、ありとあらゆるものが視界に飛び込んでくる。便利なんだけど、情報密度が異常に高い。気づかないうちに呼吸が浅くなっていく。

会社と家を往復して、休日はショッピングモールで終わる生活を何年も続けていると、人間は「考える」というより「処理する」モードに固定されていく。自分が何を感じているかより、目の前のタスクをこなすことだけに全神経が向く。

湘南に来て変わったのは、そこかもしれない。海って、基本的に何もない。ただ波があって、風があって、空が広い。それだけなのに、頭の中のノイズが少し静かになる瞬間がある——少なくとも、私はそう感じた。

海が「回復環境」になる理由(環境心理学の視点)

環境心理学では、自然環境(特に水辺)が注意機能の回復を促すという研究が複数ある(注意回復理論 / ART)。都市環境が「意図的注意」を要求し続けるのに対して、自然環境は「非意図的注意」を引き出し、脳の休息を促す、とされている。ただしこれは傾向であり、個人差が大きい点には注意が必要。(要出典確認)

海への感動は、半年で薄れる。でも不思議なことに、それでも効いてくる

ここは現実的に書いておく。住み始めて半年くらいで、海への感動は普通に薄れる。江の島も見慣れるし、夕焼けも「今日は綺麗だな」くらいにしか感じなくなる。観光で来た時みたいなテンションが毎朝続くかといえば、まったくそんなことはない。

でも不思議なのは——それでも海が視界にある生活は、じわじわと効いてくる。

仕事でかなり消耗した日でも、とりあえず海沿いを10〜15分歩くと、少し戻ってくる感覚がある。完全回復じゃない。でも「ずっと密閉空間にいる感じ」からは抜け出しやすい。これ、多分、湘南に住んでいる人は感覚的に分かると思う。

注意:「海に住めばメンタルが治る」は危険な誤解

うつや不安障害など、医療的なサポートが必要な状態に対して、環境変化は根本的な解決にはなりません。この記事はあくまで「日常的な消耗感・ストレス負荷の変化」についての個人的な観察です。精神的な不調を感じている方は、まず医療機関への相談を。

海沿い生活は、キラキラだけではない。当然だが

もちろん、いい話ばかりではない。潮風で自転車はサビるし、洗濯物はベタつく。夏は観光客で国道134号が完全に詰まる。湿気は強い。それに——湘南に移住したら人生そのものが変わる、みたいな期待を持って来ると、かなりズレることになる。

仕事の悩みは普通に続く。人間関係も消えない。海の近くに来た瞬間にメンタルが整うわけではないし、東京から逃げるように来た人が、すぐ元気になるかというと、そう単純でもない。

よくある「期待のズレ」パターン

  • 「海が見える部屋に住めば、毎朝テンションが上がるはず」→慣れる
  • 「都会のストレスから逃げられる」→原因ごと引っ越せるわけではない
  • 「湘南の人はみんなゆるい」→普通に地域コミュニティはある、人間関係はある
  • 「交通が不便でも自然があれば平気」→生活利便性は思いのほか重要

ただ、都市部特有の「常に急かされる感覚」は、確実に減る。これは正直、大きい。

海そのものより「余白」が効いている、という仮説

湘南に20年以上住んで思うのは、海そのものより「余白が物理的に存在できる環境」が効いているのではないか、ということだ。

東京にいた頃は、空いた時間にすぐ予定を詰め込んでいた。移動も効率重視、スキマ時間にも何かしていた。でも海沿いって、ぼーっとしている時間が「普通のこと」として成立する。夕方に5分だけ海を見るとか、缶コーヒーを持って堤防に座るとか、そういう時間が自然に発生する。

この「意味のない時間」が、意外とメンタルには重要なんじゃないかと思っている。生産性ゼロの時間を持つことの許容度が、都市部では低くなりがちだ。

湘南の「余白タイム」が成立しやすいスポット(個人的おすすめ)

  • 茅ヶ崎 サザンビーチ周辺の防砂林ベンチ(夕方は人が少ない)
  • 辻堂海浜公園 海側エリア(芝生でぼーっとできる)
  • 鵠沼海岸の静かな裏道(観光客が少なく、海沿いを一人で歩けるゾーン)

※いずれも個人的な印象です。混雑状況は時期によって異なります。

海を見る生活が向いている人、向いていない人

正直、かなり相性がある。自然が近い環境で落ち着ける人には、湘南は合うと思う。逆に、刺激や利便性がないことがストレスになるタイプの人は、かなり辛くなる可能性がある。

湘南は、東京ほど完璧に便利ではない。電車は遅延するし、車社会の要素が強く、夏の湘南新宿ラインはまともに機能しないことがある。夜は場所によってかなり静かだ。

向いている人 / 向いていない人(あくまで傾向)

✔ 合いやすい

  • 静けさを「回復」と感じる人
  • 在宅・フリーランス・リモートワーク
  • 自然の中で体を動かすのが好きな人
  • 車移動に抵抗がない人
  • 子育て期間中(公園・自然環境が豊富)

✖ 合わないかも

  • 静かすぎると不安になるタイプ
  • 毎日の通勤が都心まで必須
  • 商業施設の充実を重視する人
  • 夜の外食・娯楽が生活の中心の人

住んでみて変わった感覚——「空を見る回数が増えた」

東京にいた頃、空を見ていたかというと、ほとんど見ていなかった気がする。道路も、人も、画面も、すべて視線は水平以下で完結していた。

湘南に来てから、空を見る回数が増えた。季節の変わり目、風の向き、夕方の光の色。そういうものをちゃんと認識する時間が、少し戻ってきた感じがする。毎日テンションが上がるわけじゃないし、人生が劇的に変わったわけでもない。ただ、東京にいた頃の「ずっと何かに追われている感覚」の速度が、少しだけ落ちた。

海の効果って、たぶんそのくらいのものだと思う。治療でもなく、変革でもなく。ただ、少し消耗しにくくなる——という、地味で正直な話。

なおの視点

正直なことを言うと、「海でメンタルが回復する」という言説が一種のブランディングになっていて、そこに乗っかった移住を煽る情報がかなり多い、と感じている。

湘南は確かに環境がいい。20年以上住んで、それは思う。でも「東京で疲れた人が湘南に来れば元気になる」という話は、半分本当で半分ファンタジーだ。疲れの原因が仕事そのものにあるなら、住む場所を変えても根は変わらない。

ただ、「消耗しにくくなる余白が物理的に存在できる環境」というのは、長期的な暮らしにおいてかなり意味があると思っている。不動産の資産性だけで住む場所を選ぶのではなく、自分がどんな速度で生きたいかを含めて、湘南という選択肢を考えてほしい。

今後、湘南エリアへのリモートワーク移住はさらに増えると見ている。ただし、コロナ禍の「なんとなく移住」が一巡して、より解像度の高い人が来るフェーズになっていくのではないかと感じている。


※本記事は、著者の個人的な経験と観察に基づく情報提供を目的としています。医療的・精神的な問題の診断・治療を目的とするものではありません。精神的な不調を感じている方は、医療機関への受診をお勧めします。不動産・移住に関する判断は、最新情報をもとにご自身でご確認ください。

参考・関連情報

  • Kaplan, S. (1995). The restorative benefits of nature: Toward an integrative framework. Journal of Environmental Psychology(注意回復理論 原論文)
  • 国土交通省「移住・2地域居住の促進」関連情報:https://www.mlit.go.jp/
  • 神奈川県「かながわ移住&就業支援サイト」:https://www.pref.kanagawa.jp/

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